さくら―decoy | Social Stalking
さくら―decoy


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桜の下を歩きながら。

数年以上の前の話になる。
新橋駅前で、当時某商社系店舗のイベントのため、
サンプリングなどのキャンペーンを行っていた。
私はキャンペーンの女性が配布するための箱の運びこみから、
店舗までを行ったり来たりで、冬を忘れたころだというのに、
スーツの中は蒸してしまっていた。

ひとしきり落ち着いてきたころ、私は烏森口の壁に寄りかかり、
缶コーヒーに指をかけたまま、煙草を吹かして休憩していた。

何やら背後が騒がしくなった。目をやると、5〜6名程の壮年後期の男女が、
ドカドカと小さなテーブルを広げ、搬入をはじめだした。
私は横目でその様子を眺めながら、再びサンプリングの状況確認のため、
現場へ移動した。
その後何度か行ったり来たりを繰り返しているうちに、

やがて、烏森口前の小さなテーブルの周りには、人だかりができ始めていた。
何をしているのかと思い覗きこんでみると、腕時計を販売していた。
しばらくその様子を窺っているといると、
「うん千円、うん千円!でいいよ。もう終うから」
何度も同じ調子で初老男性の声が活気づく。

そのうちにふとあることに気がついた。
客の中に、荷物の出し入れをしていた数名が含まれていることに。
そして更に私は目を見張った。
「おじさん安いねこれ、買うよ」と時計を手に取っては、
千円札をやり取りしているのだ。
入れ替わり立ちかわり。彼らは目まぐるしく、時計と千円札を往復させていた。

少し疲れていたせいか、ふと私は言葉を滑らせてしまった。
「詐欺じゃん」

すると、地獄耳のような老婦の眼が、私を睨みつけて声を押し殺し、
絞り出すように言った。
「しっ、さくらっていうんだよ」
そういうとすぐに彼女は、表情を崩しニッコリした。

私はサンプリングの指示も忘れ、しばし彼らの手際の良さにくぎづけになっていた。

しばらくその様子を見ているうちに、カモ客が来た時の、
彼らの高揚も感じ取れるようになった。
さくらとやりとりしているときとは、明らかに「声色」が異なるのだ。
築地市場の活気に似た声で、威勢が良くなる。

中年の眼鏡をかけたグレーのスーツを纏った男性が、その列に加わった。
初老の男性は、野球のサインを交わすように、さくらの女性と視線を交わしていた。
すると、女性は、「カモ」に話しかけた。
「安いねこれ、ねっ、お買い得だわ、買おうかなあたし」
このセリフを、執拗に繰り返していたので、私は吹き出しそうになったが、
先ほどの睨みを思い出して、自粛した。

たたみかけるようにして、初老の男性も言葉を吹っ掛けた。
「うん千円でいいよ、うん千円でいいよ、もう終うから」
すると眼鏡の男性は、財布を手に取り、時計の物色を始めた。
横にいたさくらの女性は、時計を手に取り、また千円をやりとりし始めた。

時計が決まって、男性が財布の口を覗きこむと、少しホットしたような、
半ば困ったような表情で、「あぁ、一万円しかないや」といって、
時計をテーブルに戻そうとした。
するとさくらの女性は、「大丈夫だよね、お釣りあるよね」と、
初老男性に言葉をかけた。
「あるある、それでいいよ」といって、手を男性に突き出した。

彼は諦めたように一万円を差出しつつも、時計を腕にはめて、左右に燻らせていた。
満更でもなさそうだった。と、私が思っていた瞬間、事態は一変した。

なんと、初老の男性は、千円札を男性にお釣りとして差し出していたのだ。
私でもこんな単純な計算ミスはわかる。しかし老人は、堂々と差し出している。
驚いていたのは、眼鏡の男性も同じだった。
「お釣り、九千円でしょ?」と、いくらか悲痛な面持ちで訴えかけるように言った。
老人は千円札を摘まみながら、
「だから九千円だっていっただろ?」と、
嫌がらせをしてくる者のようにすっとぼけて言った。
男性は怒り、「じゃいらないよ、千円ていったから買ってもいいと思ったんだ」。

そのとき、値段を言う前に、紛らわしく「うん千円、うん千円」と、
濁すように値段を言っていた意味が理解できた。
老父はほとんど抵抗することなく、一万円をあっさり男性へ戻した。
それをうけとると、男性は私の横をつかつかと急ぎ足で、通り過ぎて行った。


私も仕事の途中だったことに気がついて、現場へ戻りかけようとした時に、
先の女性が、いつのまにか私の背後にいることに気づいた。
「詐欺じゃないのよ」といって、またさくらに戻っていった。

キャンペーンは、4月12日から数日間行っていたが、彼らをその間数度目撃した。
いつも同じやり方だったから、顔もなんとなく覚えていった。
ちゃんと、売れたのだろうか、そして、
あの時計の本当の値段はいくらだったんだろう。
でも「詐欺じゃない」といっていたから、千円を出せば、
千円で買えるのかもしれない。
それとも人によって値段が変わる、「時価変動性」だったのかも知れない。


夜桜を見かけるたびに、彼らの記憶が過ぎることがある。さくらと繋がってしまっているのだろう。ただそれだけのことだけど、あの人たちの記憶が今でもひっついているのは、物凄い気迫を感じ取ったせいかもしれない。当時の自分よりも、ずっと。

見習うべきところがあると感じながら、私は歩いている。

29 May,2008 windyjuly
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Comments
みんながターザンの普段近所で見せる素行を知らないから知ってほしいです。

簡単に言って、車は奇声を発して乗るもので無い事。
そして、急発進・急ブレーキでレーシング場の様に
近所を走っているターザンを皆さんは知っているのですか?

それからしておかしくないですか?

私たち近隣住民は、ターザンに何の興味もありません。
ターザンを知ったのは、ターザンが引越して来た直後からパトカーを呼んで、夜でも一人で大声で喚いている変な人がいるという事からで、それを止めてくれればいいだけの事です。

私たちは、ターザンに興味はありません。
ターザンが近所での奇行を止めてくれれば一番良い事で、止めないのであれば、その事実を皆さんにしってもらい、その奇行を判断してもらうまでこの場でお借りするしかありません。

理由は、youtubeで見る様に、ターザンの仕返しや行動が近所住民としては怖いのです。
Posted by ターザンさんのご近所より | 2009/01/13 8:45 PM

ご拝読いたしおります。
上掲にリンク貼らせていただきたく、よろしくお願いいたします。
Posted by nctks272 | 2008/10/11 12:45 AM

愛知県在住の者です。博士の独り言から、こちらのブログに辿り着きました。最近更新されてませんが、生きてますか?windyjulyさんは、昨年のリチャードさんの講演会で質問をされた方だったのですね。その後、リチャード以外の人に集ストについて相談などされましたか? 私は、相談をする相手が皆目みつからなくて、毎日アパートに引きこもっています。集ストは、拉致問題と同じ構造なのかもしれませんね。だから、世間に広く認知されるまで20年くらいかかるかもしれない、そんな気がしています。まあ、焦らず怒らずあきらめず、気長に生きていきましょう。 
Posted by michael | 2008/08/14 8:49 PM

博士の独り言から、こちらのブログに辿り着きました。08年4月から更新されてませんが、生きてますか?当方は、愛知県一宮市に住んでいる者ですが、概ね、貴方様と同じような被害を受けています。一体、誰に相談したら良いのでしょうか。途方に暮れるばかりで、時間だけが無駄に過ぎていきますね。
Posted by sato | 2008/08/12 7:35 PM

神奈川県平塚市に居住しております。
ターザンさんのところで藤沢の方と拝見しました。
気が付かされてから9ヶ月ですが
考察するに数十年の被害です。
親も含めて三世代の被害です。
付き纏いはインターフェイスされた魂の抜け殻と見ました。
電磁波低周波は痛いし震えるし超気分悪いし
怪我や病気にも思いのままにされてました。
電話このパソコン携帯みんな盗聴されているし
近隣からは物凄い囲みにあってます。
例の組織と工作員その他巷間いわれている者達ですね。
しかしうつにはならずに頑張ってます。
Posted by | 2008/05/28 4:23 PM

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